牛尾キャプテン日記
蛇神くんの特訓につきあわされた日
~ 蛇神くんの特訓につきあわされた日 ~
今日は非常に疲れる一日だった。
蛇神くんが自分の限界に挑むとか訳の判らないことを言い出し、特訓ともデモンストレーションともつかないメニューの準備をやらされた。屋上から100個ものボールを落とし、その中からマークのついた一つだけを地上でキャッチするというのだ。無茶極まりない。大体それは本当に訓練になるのだろうか。というか、何でそんなメニューを思いつくのか全く謎だ。
本音としてはものすごく反対したかったが、蛇神くんはやると言ってきかないし、鹿目くんは横で「まったく困った奴なのだ」とか言いながら黒い笑顔でクスクスいうばかりだし、他の奴らは「すげえ・・・」とか「無茶だ」とか言うばっかりで止めやしない。終いには「さすが蛇神先輩」とか言い出す奴まで出てくる始末で、ここで止めたら主将じゃない、いやむしろ男じゃないみたいな雰囲気になってしまい、結局僕が手伝うことになってしまった。集団の脅威を実感した。
屋上に入るのには苦労した。先生にバカ正直に「蛇神くんが屋上から落としたボールをキャッチする特訓するんで屋上入ります」と申請し、教師の権威でやめさせる手も考えはしたが、それをやったら先生に怒られるのは多分僕だしおまけに部員からの評価も下がりそうでできなかった。よく考えれば死人が出たらそれどころではないのだが、まあ蛇神くんは死んだとしても生き返るだろうし、そう大事にはならないだろう、という気持ちの方が強かった。それよりも屋上へ100個のボールを運び入れるという難題になんとか決着をつけなければ僕の面子が立たない。屋上へ向かうと案の定、入り口は鍵がかかっていた。「これじゃあ無理だね」と少しホッとしつつ言ったら、「鍵ならあるZe」と虎鉄くんが鍵を差し出してきた。どうやら猪里くんが用務員のおじさんと懇意にしてるらしく、猪里くんと虎鉄くんの二人で適当なことを言って借りてきたと言う。まったく余計なことをする。普段は妙なしなやローマ字の語尾もあまり気にしてなかったが、この時ばかりは殺意が沸いた。
屋上に入れてしまった以上もう実行あるのみ。まずは僕が柵の外に出てみたが、意外に怖い。はっきり言って一刻も早く柵の中に戻りたい。しかしここで怖がっては主将として情けない。
動揺を極力隠してはみたものの、ボールの入った箱をどうやって受け取ったのかも思い出せない程に緊張していた。
とりあえず、ボールを落とす前に蛇神くんに「命に関わるよ」と念押ししてみたが、どちらかというとこの状況では僕の命の方が危うい。そんな状態なのに「案ずるな」などと平然と言ってのけられ、ボールを箱ごと投げつけたい衝動にかられた。
結果としては、蛇神くんの特訓は成功した。落下する球を避けつつ狙った1球を無事キャッチしてのけた。それはすごい。彼の集中力の超人的な高さが実証され、他の部員達への励みにもなったと言えよう。切り札的存在がいるというだけで、チームの志気は高まるというものだ。
しかし、今回の特訓はやはり他の生徒たちからチクられ、僕と蛇神くんは職員室で1時間程叱られた。僕がうんざりしているというのに、蛇神くんは何やら瞑想しているみたいだった。職員室から開放された時に聞いてみたら、「3秒後を見ていた也」と返答された。未来の世界よりも現実を見てほしい。
やっぱり今日は、どこまでも僕が貧乏くじを引いたとしか思えない。
君たちの声無き要求が僕を駆り立てる
抗う手段を僕は持たない
強くならなければ
強くならなければ
そして僕は強さを得ようと
今日もグラウンドを20周
君たちに抗う強さを得るために
ウサギ跳びであと2周
強くならなければ
強くならなければ