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牛尾キャプテン日記

合宿3日目

~ 合宿3日目 ~

合宿3日目が終了した。
今日は部員全員にとって、肉体的にも精神的にも非常にハードな一日だったと言える。
まず、朝の集合時、監督からこの合宿の目的についての発表があった。
監督は、この合宿で各人の実力を見極め、その結果に基づいて一軍・二軍(監督は雄軍・賊軍と呼んでいたが)に振り分けるつもりだったようだ。
確かに、今までの「特訓」と称されたものを見ていても、能力アップというよりもむしろ能力判定に近いメニューばかりであった。そこからも、監督の目的には薄々気付いていたことではあったが、やはりはっきりと口に出されると気が引き締まる。しかし、多くの部員は気が引き締まるどころか落ち込んだり怒りだしたりしており、端で見ていて情けないこと極まりなかった。彼らにはいい意味での競争心はないのだろうか。ただ単に練習すれば喜ばしい結果が産まれるという訳ではない。良い結果だけを望んでいるのなら、単なる練習ではなく、それこそ血を吐くような特訓を重ねる必要がある。何年も野球に携わっていてそのことに気付かないのは何故なのだろうかと不思議でならない。それにしても、監督の「この"ゆかいな合宿"、じつは"ゆかいな合宿"じゃないんだ」という言葉には思わず「この合宿を愉快と感じていた部員がいると本気で思ってたのですか」と聞いてしまいそうになった。やはりこの合宿、監督にとって愉快なだけの合宿だったということが今日はっきり判った。

本日の特訓は打の特訓ということだが、これもまた特訓というよりむしろ能力判定に近いものと思える。もうここまで本当のところを明かしてしまったのなら、いっそ「特訓」などと呼ばずに「オーディション」とでも言ってしまえば良いのに、とすら思った。なんにせよ、練習に関わらず試合に関わらず、どのような場面でも全力で臨むべきことを考えれば、呼び名などどうでもいいことではあるが。
それにしても今回、これが最後のチャンスとばかりに必死になる各部員の中で、一年の猿野くんの自己崩壊ぶりには心底呆れた。いや、呆れたという言葉もあてはまらない。むしろ「疲れた」、この方がぴったりくる。彼こそまさに、単なる練習を積んでいれば素晴らしい結果を得られると思っているタイプの最たるものだ。彼の場合、練習を積むというステップすら飛ばそうとしているところがある意味すごい。野球に関しては素人で、基礎も何も身に付いていない状態でレギュラー入りを目指しているのだから恐ろしい。結果すら産んでいない状態で、一体何を根拠にレギュラー入りの資格があると思い込んでいるのか全く謎だ。根拠不明な自信といい、あの言動といい、一度病院に連れていった方がいいのではないだろうか。確か、叔父がいいカウンセラーを知っていると前に言っていた。今度さりげなく猿野くんを連れていってみようか。合宿から帰ったら叔父に相談してみよう。

ところで、今日はマイナスなことばかりではなかった。
打の特訓が終了し、今回の合宿でのメニューを一通り終えたところで監督から雄軍・賊軍の振り分け発表がなされたのだが、僕は今まで通り雄軍のサードに振り分けられた。レギュラー勢はみな雄軍入りしており、結局のところ、全体的にはあまり大きな変化はなかったと言える。
しかし、その結果に満足行かなかった一年の辰羅川くんが異議を申し立てた。
監督の采配に新入部員が異議を申し立てるなど、今までの十二支では考えられないことだったが、2,3年部員はみなおっとりとした反応だった。僕らの上の世代がいた頃なら、先輩や監督に一言でも文句を言ったりすれば怒鳴られたり殴られたりなどしたものだったが、今日の辰羅川くんを始め一年部員のブーイングを誰一人抑えつけようとする訳でもなく、みな一様に「元気だなあ」などと呑気に見ていた。去年までの完全年功序列の考え方は今年の2,3年からは消え去っているという良い実証だと思う。こういう風通しの良い部が、思ったよりも早く実現されたことは非常に喜ばしいことだ。
そして一年部員の必死さも、ある意味とても良いことだと思った。ただ黙って評価を待つだけでなく、自分の実力を積極的にアピールしてそれにふさわしい成果を挙げるというやり方は、決して悪くはないと思う。そういうやり方を認める野球部は異例だとは思うが、慣例に従うばかりが良いことでもないだろう。ただ、2,3年と1年とで分かれて対抗試合を行なうという監督の提案には、いささか「また嵌められたか」という気がしないでもないが。

とにかく今日は、今後の十二支のあり方として、非常に喜ばしい一日だったと記しておこう。

豊かな収穫はたゆまぬ働きがあってこそだと
年経た者は幼子に説く
しかし主は「野の花のようであれ」と説かれた
望みすぎることをやめ、与えられるものに満足せよと
豊かさを望むことは主の教えに反するだろうか
望みすぎるほどでなければ
太陽に向かって伸びることも叶わぬというのに

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